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■作文 No.005

「失恋サンセット・ロード (to the West-Coast) 〜夢で逢えたら〜」 2000.07.??

 照り付ける真夏の日差しに目を細めながら手でひさしをつくる。目当てのビーチまでは、連なる車に隠れてどのくらいあるのか見当もつかない。ガスが切れて使い物にならない冷房のスイッチを苛立たしげにいじった後、あきらめたように閉めたばかりの窓を再度開けるためにハンドルを手荒く回す。潮の香の混じったそよ風が心地よい。ダッシュボードに置かれた熱くなったカセットテープの一つをステレオに差し込む――。

 スピーカーから流れてくるAORに耳を澄ますと、大学卒業と同時にプロのサーファーを目指してアメリカに旅立った当時の彼女を思い出した。別れた後にもらった絵葉書には安否を気遣う文面の裏に、「伝説のサーファー」と但し書きのついた男が大きな波の中をくぐり抜ける場面の写真が、ひ弱な僕を責め立てるように描かれていた。あこがれのレンジローバーを購入し、ハワイでシェイパーの仕事を学びながら、今の恋人が営むサーフショップを手伝っているそうである。近くハワイで挙式を挙げるという。募る嫉妬とやるせない現状にたまりかねて思わずこのポンコツ車に蹴りを入れる。落ち着いてくるといつか二人で見た映画のことを思い出していた。主人公のサーファーが常に大きな波を求めて、渡り鳥のように一年中季節に合わせて全世界を飛び回るというシンプルな内容の映画だったが、 今思えばそれを食い入るように見ていた彼女の――おそらくは潜在的に求め探していたのだろう――自由を拘束し、いつまでもごみごみとしたこの東京に押し込めていようとしていたのは紛れもなくこの僕ではなかったか?自由奔放だった彼女がこんな僕に嫌気を差したのも無理もないことか……。

 過ぎ去りし過去の栄華の中を彷徨いながら、僕はこれらの音楽に耳を傾ける。彼女と交換し合ったカセットテープ……。僕は誰の曲を入れたのだっけ?デヴィッド・フォスター、ベイビー・フェイス、ナラダ・マイケル・ウォルデン、トミー・リピューマ、R・ケリー、etc……。時折テンションを利かせたコード(和音)を8分刻みで弾くキーボードをバックに、ビートの利いたギターが和音に沿ったクリシェ(常套句)の進行でソロを奏で合わせながら、ボーカルが爽やかに歌い上げるポップなロックが好きだと書いたのだっけ?

 「こうゆーの、AORってゆうジャンルでしょ?」彼女に言われて、そのとき初めて自分の好きな音楽のジャンルが"AOR"と呼ばれているものだと知った。そしてそれが、昔のサーファーがビーチに向かう際によく聴く音楽だということも。その時期からか、サーフィンに興味を持ち始めた彼女と相変わらずの僕との会話が行き違うことが増えた。彼女がくれたカセットテープには何が入っていたろう?

 いつか見た晴れ渡る青空の下――将来のことについて熱っぽく、時々ふざけながら話し合った遠い日の約束を思い出しながら――この海沿いの車道を怠惰に任せて無気力に走らせる。偶然の再会を期待しながら、空いた車間を詰めるためにアクセルを思い切り踏み込んだ。「もう一度、もう一度だけ夢で逢えたら……」小さな車載スピーカーが、叫ぶように割れた音を吐き出していた――。



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